子どもの口の中にたくさんの痛そうな口内炎ができ、同時に高熱が出ている…。そんな時、まず疑われる病気の一つが「ヘルペス性歯肉口内炎」です。これは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に初めて感染した時(初感染)に起こりやすい症状で、特に生後6ヶ月から3歳頃までの乳幼児に多く見られますが、大人でも初感染の場合は発症することがあります。ヘルペス性歯肉口内炎の主な症状は、まず、突然の高熱(38~40℃程度)で始まります。発熱とともに、機嫌が悪くなったり、食欲がなくなったり、ぐったりしたりといった全身症状が現れます。そして、その1~2日後くらいから、口の中の粘膜(歯茎、舌、頬の内側、唇の内側、喉の奥など)に、多数の小さな水疱(水ぶくれ)が出現します。この水疱は、すぐに破れて浅い潰瘍(アフタ性潰瘍)となり、強い痛みを伴います。そのため、食事や水分を摂るのが非常につらくなり、よだれが多くなったり、口臭が強くなったりすることもあります。歯茎も赤く腫れ上がり、出血しやすくなるのが特徴です(歯肉炎)。首のリンパ節が腫れて痛むこともあります。症状は、通常1~2週間程度で自然に治癒していきますが、その間は、痛みや発熱、摂食困難など、本人にとっても家族にとってもつらい時期となります。特に乳幼児の場合は、水分も十分に摂れずに脱水症状を起こしやすいので注意が必要です。ヘルペス性歯肉口内炎の診断は、主に特徴的な臨床症状から行われますが、必要に応じて、水疱の内容物や潰瘍面から検体を採取し、ウイルス検査(抗原検査やPCR検査など)を行うこともあります。治療としては、特効薬である抗ウイルス薬(アシクロビルなど)の内服や外用(塗り薬)が、発症早期に開始されると、症状の軽減や治癒期間の短縮に効果的です。また、発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤、脱水予防のための水分補給、そして口の中を清潔に保つためのうがいなどが重要となります。もし、高熱とともに口の中に多数の痛い口内炎ができた場合は、ヘルペス性歯肉口内炎の可能性を考え、速やかに小児科や歯科・口腔外科、耳鼻咽喉科などを受診するようにしましょう。